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 純愛ist(更新停止)

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R-TYPEパロ(SS)

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R-TYPEパロ(SS)


「もう、帰っていいのか。」

 流竜馬とB-3C2セクシーダイナマイトⅡは、人類の宿敵バイドコアを破壊し、永い宇宙空間の旅を終えた。
 しかし、戦いを終えたB-3C2の姿は、本来ありえないモノと化している。戦いの中、バイド素子に浸食された機体は完全にバイド化しており、無機物と有機物の混ざり合った醜形の舟としか言いようがない。
 だが、あらゆる理性と知性を異物に食い潰され、なにより、元より身体感覚を持たない肉体では、異種に侵され混じり融けた自身と愛機の現状を知る術はない。
 ただ、真っ赤に染め上がる視界の、中央に捕らえた青い惑星へ、スピードを張り上げる。

「帰れる。帰れるんだ。」

 使命の檻から解放された実験動物の譫言(うわごと)が、異生物に虫食まれた大脳に谺(こだま)する。
 B-3C2はコックピット内にバイドから抽出したゲル状の神経伝達物質を充填することで、ゲルを介してパイロットの脳波を機体制御に直接転送する。その人体とバイドの直結システムにより、狂化したバイド素子を秒毎に脳中に流し込まれる結果となり、異常と言える浸食速度でバイド化した肉体は、人体としての外見も役割も数分で失っていた。
 だが、奇しくもまた、このシステムにより、指一本動かせず呼吸一つできなくなろうとも、B-3C2を依然変わることなく駆ることが可能であったのは、人類にとっては最大の不幸であったと言える。

 側方を高速で通り過ぎていく月齢1.5の刃のような月が、どことなく恋人の佇まいに似て、自然と蕩けるような笑みを零させる。
 しかし、その笑みは、客観的に観察すれば、苦痛か憎悪かで顔を歪ませたようとしか捉えられない。


 この宇宙から飛来する『バイド』に対し、軍は戦闘機群に絶対破壊の命令を下していた。

 大気の層を突き抜けると、おびただしい自らと同じ機影。
 しかし、そのこと ― 自分が味方から攻撃されているという事実に、男は何の感慨も抱かない。
 とうに敵・味方という認識すら不可能の状態だ。現在の彼に認識できるものは惟一人の人間だけで、それ以外のものは彼へ到る帰路に過ぎない。
 それゆえ、それを迎撃すること ― 自分がつい数時間前まで彼らを護るために戦っていた人々を鏖殺することは、むしろ「歩く」という行為に限りなく近かった。
 人を撃ち、潰し、砕き、抉り、穿ち、呑み込み、攪拌し、足下には諸悪の種子を蒔いて、凱歌を打ち鳴らす。
 それは彼にとって、戦闘ではなく帰投であった。


 猛り狂う凶獣を、溢れる涙をそのままに、神隼人は恍惚の面持ちで光彩に留める。

 洋上の軍母艦甲板、戦闘機発着場、過日彼を見送り永劫別離を悟った場所。
 雷光の如き『バイド』の進行速度に、本部はすでに指揮を放棄し、この艦はすでに自分一人、そしてすぐに無人となるだろう。

 見慣れた、しかし常におぞましいと感じていた恋人の愛機は、ずぶずぶに腐った果実のような有機物に犯され、磨き上げられた黒金のフレームもそれを包み込む真紅の半液体も、見る影もなく汚されていた。
 だが、隼人はその醜態には目もくれず、ボディに刻まれた傷口―斬り痕、焼け痕、抉り痕、擦れ痕、一つ一つに注意深く視線を払った。

 どれほど苛烈な戦いであったのだろう。最愛の男を供物に召しあげた、自分がこの世で最も憎悪する金属と液体と化物の鉄棺。そんなものに対して、謝意と憐憫を覚えるほどの有様であった。
 地上に残された自分では想像すら及ばなかった、思い人の宇宙での死闘を、数多の傷口のその一つ一つが、まるで自身の武勇伝を語るが如く、子細を雄弁に伝える。
 あの男は、自分が守れなかった男は、夥(おびただ)しい牙と爪の群れに果てに、人智及ばぬ怪物を滅ぼし尽くし、創痍の満身を異物の汚泥に塗(まみ)れさせながらも、吹けば飛ぶ命の残りを最後の推進剤とし、ここまで帰ってきたのだ。

 もはや歓喜などという言葉ではすまされない。感動であり、自責であり、恋慕であり、感謝であり、際限ない感情の暴走である。


「俺に会いにきたんだな!竜馬!」


 如何にして豪速の只中の男にその雄叫びが届いたか、真っ直ぐに突進してくる戦闘機はさらに速度を増し、ゲルで充填したコックピット内に俄に沸き立つ水泡が、液中の人間が噎(むせ)び叫んでいることを物語る。
 切り裂かれる大気の激流を直に受けながらも、隼人は翼の如く両手を広げた。
 何度こうしてあげたかっただろう。そして、何度それができなかっただろう。やっとこの男を、この腕に帰してやれる。
 B-3C2のキャノピーは、隼人に抱き締められるようにその体を抉り貫き、そのまま艦に激突した。


 その爆破によって飛散したバイド細胞は瞬く間に陸地へ広がり、先の戦闘で撒き散らされた細胞と併せて、一日とたたず地球全土に蔓延(はびこ)るだろう。この日が、人類の、地球の最後の日となる。

 しかし、それを引き起こした男の表情は、驚くほど安堵に満ちている。
 何一つ自分のものにならなかった体が、命が、真夏の太陽に暖められた海水と、対して静謐な生まれたての廃墟との交点に収縮し、帰結していく。

 美しい光景だった。それが火だなどと到底思えない輝きの中にある舟に、同じく光の奔流の如き海水が、神経のように枝分かれ走る。体内に澱んだ重々しいものが波に浚われ、替わりにゆっくりと海音と夕凪で充たされ、肉体が魂のみの重さになる。
 星が散らつき始めた空。弾かれる水滴の照光。ふくらむような夕暮れの風。星の重力。今まさに海面に渦を刻んで沈み込む舟のように、すべての事象の方向性が緩やかな螺旋に沿って自分という点に到る。

 やがて、体が完全に海中に沈んだとき、瞬く間に一変する風景に思わずはっとする。
 自分を包む生暖かい液体、夕陽を透過した海水の赤、糸のように垂れる光の管…。血液!自分は生物の体内に漂っているのだ。
 同時に、幾刹那か前に視線を交わした、自分を迎え入れる男の腕が水面に、網膜に、脳内に、心中に去来する。


「隼人!俺を…、俺を眠らせてくれるんだな!おまえの中で!」


 世界が崩れる音が、聞こえる。じきにすべてが海に覆われる。抱かれて眠りに就くのだ。自分も、世界も。
 日没の微睡みの中、恋人の血と肉片が漂う海で、男は安らかに目を閉じた。






『真(チェンジ!)R-TYPEファイナル 地球最後の日』 完

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 ヲヤスミ、ケダモノ…ということで。「夏の夕暮れ」というR-Typeのストーリーを改変したものです。このSSを書いたのがRパロの出発点になったので、Rパロとはちょっと設定が違います。
 ハッピーエンド至上主義と自称しながら、「夏の夕暮れ」も世界崩壊エンドも実はすっごい好きです。もっと当事者だけが救われる世界規模ウルトラ心中ものが増えてくれればいいのにな。「死ぬ」と「眠る」は違うんですよ。断じて。



『暗闇に 天つ光が 動いたら そこは世界の 夜の海辺よ』 佐藤りえ

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