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 純愛ist(更新停止)

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剣心一如



「よろしくお願いします」
 道場の中央に、しゃん!という音が聞こえそうなほど姿勢良く正座する青年。
 純白の道着、濃紺の袴。帯に差した日本刀にゆったりと左手を預けている。髪もあの独特の形に整えておらず、櫛を入れたのみであろうか、普段より艶の増した黒髪に、彼が生粋の日本人であることを再確認させられる。
 面持ちは凜として精悍。よく見知った無愛想な態度とはほど遠く、一途な眼差しは教え子を見つめる教師のような真摯さで、堅く結ばれた口元は思索に徹する学者のような聡明さだ。

「今日の海動さん…、なんかかっこいいな」
「まるで別人ですね」
 この大道場の若師範のような青年が、果たして、スーパーロボット“魔神”カイザーのパイロットである、戦場にて地獄の水先案内人と畏怖される、国際機関WSO直属広域特殊戦闘部隊スカルフォース軍下デスカプリース隊所属海動剣特務中尉であると誰か信じてくれるだろう。
 そんな思惑を抱いて、アニエス・ベルジュ少尉と早瀬浩一少年は海動と相対し正座していた。
「返事ッッッ!!!」
「よ、よろしくお願いします!」
 先ほどの落ち着きはらった挨拶とは一転、耳から耳を突き抜けるような怒号に「あー、やっぱ海動さんだ…」と二人は胸を撫で下ろした。

 UX(という独立部隊はまだ存在しておらず、前身組織であった頃の話だが)のメンバーには浩一のように、つい最近まで民間人だった者も多い。彼らの戦闘技術向上のため、海動のような公的機関に所属する軍人が、それぞれの専門分野の戦闘技能について定期的に個人指導を行うことになっていた(アーニーのように、民間人の補佐と自身の修練のために参加する勤勉な隊員もいるが)
 そして、本日の講師が、この海動の双子の兄弟とでも言われなければ納得いきそうにない風体の剣士であった訳である。

 二人の返事に海動はいまだ不服げだが、手早く襟をただし正座を直した。
「戦場ならともかく、ここは武芸を修める場だ。なるたけ礼儀はきちんとしろ」
「礼の場では礼をもって、無礼の場では無礼の礼をもって。それが場を弁える、ってことだ」
 その言葉に対し丁寧に頷くアーニーは今日の海動の佇まいについていくらか腑に落ちたようであるが、浩一は海動の口から出た「礼」という単語がどうにも不似合いすぎて変な笑みを浮かべている。その苦笑を目端に捉えたかは分からないが、海動は鋭い視線を浩一に遣ると、傍らにある日本刀の柄を握り、真っ直ぐ浩一の喉元に突き出した。
「早瀬。お前からだ」
「お前の獲物(ラインバレル)は刀を使うだろう。素人のお前じゃキチガイに刃物だ」
 キチガイに刃物。その言葉を聞いた浩一は、変わらず物言いたげな苦笑を浮かべたまま海動の目を見続け、アーニーはゆっくりとその様子から目を背けた。



「いちいち着替えるんだ?」
 隊服の方が動きやすいんじゃないか。浩一とアーニーが訪れるより数十分前、JUDA本社内の道場(そんな施設まであるのかと、流石の海動も面食らった)、その隅で道着に袖を通していた海動は、突如投げかけられた相棒の言葉にぎくりとした。
 別に道着が動きにくい訳ではない。むしろ隊服より余程長く親しんできたものなのだが、用意された道着は新品でよく糊がきいていたため、動きに障るかもなぁなどと考えていたまさにその時であった。
 思考を見透かされたこと、ごく僅かとはいえ着替えなぞに手間取っている姿を見られたことがなんとなく気恥ずかしく、紅潮した顔を真上から逸らした。

「それ、あれだろ、剣がきれいな時に着るやつだろ?」
 そんなことはどこ吹く風で、真上は存外あどけない口調のままで続ける。動きに障ることを指摘したにも関わらず、真上は海動の姿に上機嫌であった。
 海動が道着を着ることは時折あった。大抵はこういった訓練の場、もしくは模擬戦の場でだ。粗野で、無骨で、絵に描いたような無法者である海動のその精悍な凜々しい姿は、アーニーや浩一のように「別人のようだ」という感想を見た者に漏れなく抱かせてきた。
 なるほどその通りだ、と真上も思っていた。道着を纏った海動は、少なくとも戦いという観点においては、普段とはまったくの別人である。

 道着を纏った海動を一言で表現するなら、「清らか」である。振るわれる刀から血の臭いがしない。実際、間違いなく海動の太刀筋には殺意がなかった。
 海動の剣は殺人の剣だ。剣術ではなく殺人術だ。それは戦場で海動と刃を交えれば誰しも理解できることだ。しかし、道場という人工的に作り出された不殺の空間は、そんな海動が人を斬ることを禁じられた、いや、人を斬らなくていいことを許された唯一の空間であった。
 今まで海動と斬り結び、その狂刃に魅せられた戦士達からすれば、この姿の海動はなんの面白味のない男のように映るかもしれない。血に飢えた獣性もなく、狂気走った魔性もなく、勝つための剣でも倒すための剣でもない、正しくあるがための剣を振るう剣士。
 しかし、真上はそんな海動も好きだった。不殺を許された時のみ垣間見せる、刀を振るうための精緻な機械のような姿。それはなんとなく儚くて、一瞬に過ぎ去ってしまう清楚な時間だった。
 それを含ませて、真上は海動が道着を着る時を「きれいな時」と称したのだ。

「んー、やっぱ軍服よりこっちの方が剣士って気持ちになるからな」
 なので、海動の返答はすっと胸に溶けていく心地がした。
(そうか。あの姿の海動は『剣士』というのだな)
 海動の生まれた国には、剣術に単なる戦闘技術以上の価値を求める傾向、剣術に自己の精神性を投影する思想があるのは知っていた。土着の宗教観と融合し独自の発展を遂げたその思想を『剣道』を呼称し、その道を求道する戦士を『剣士』と呼称することもだ。彼らは戦闘訓練を通して自らの精神的強度を高め、そして剣を振るうことの意義や心構えを通して人生観、死生観を育み、己の内的世界の完成を目指すそうだ。
 海動がそのような思想学者じみた着想で剣術を習得した訳ではないのは明白だが、戦闘技術からその根幹である『戦闘』という要素が抜け落ちたものが『剣道』という思想であるならば、殺人刀の使い手でありながら『殺人』を禁じられた目の前の道着の青年は、なるほど『剣士』と呼ぶにふさわしいのだろう。
 そんな考えを巡らせた後、ふと真上は素朴な疑問を発した。

「剣もシュギョウってしたのか?」
「したよそりゃ…、めちゃくちゃ」
「じゃなきゃ、俺みたいな平和主義者がこんな強くなるかよ」
 まあ、そうだろうな。真上は、少々気を重くした。
 真上だって、海動が初めて刀を握った時から自分に比肩する強さではなかったことは理解している。理解はしているが、修行とか鍛錬とかそういう概念は真上には理解できないし、決して体験することはできない。戦闘用人造人間である真上は、デフォルトのパフォーマンスを活動開始時点で発揮できるよう設計されている。それ以上強くもならなければ弱くもならない。
 人間は、修行や鍛錬といったトレーニングによって強さ(という言葉も意義が曖昧で、真上には腑に落ちないのだが)を高めるということは知っている。別にそんなことしたいともしたくないとも思わないが、恋人と知識が共有できないことだけは仄かに悔しかった。

 そんな真上の表情の曇りを察したのか、海動は柔らかな表情のまま話題をすり替えた。
「10年休まず喧嘩し続けてきたやつと、1年休まず武道習ったやつ、どっちが強いと思う?」
「……どっちも俺より弱い」
「お前らしいな」
 見当違いの相棒の返答に、海動は口元を緩ませた。彼のこういうところが好きだ。空気が読めないほどに、まったく正しい事実を口にする。
「俺は間違いなく、武道が強いと思う」
 海動のよく通る声は二人きりの道場の隅々まで響き渡り、かすかに道場が震えたように感じられた。武道を称えられた道場自体が喜びに打ち震えたかのようだった。

 海動は滔滔と語る。
「人間は、寿命にも身体能力にもとんでもない個体差がある訳じゃない」
「人間が一生で会得できる武の総量なんて大して変わんないと思うわけ」
 「うちの剣術はあんま型多くないんだけど、」と口添えて、海動はぬるりと抜刀すると体の真正面に構えて見せた。
 切っ先は微動だにしない。羽虫がここに留まって羽を休めても夜まで飛び立つことはないだろう。右手は柄巻きに吸い付くようにしっかと握られ、左手はゆるやかに柄頭に添えられる。美醜の定義がいまいち不明瞭な真上でも、美しいと思える姿勢だった。
「真正面から打ち合うにはこれがいい」
「俺が俺の一生をすべて剣に費やしたところで、この型には辿り着けないはずだ」
「死んだ親父が俺に教えて、死んだ爺さんが親父に教えて、死んだ曾爺さんが爺さんに教えた…、」
「死人の構えさ」
 海動が大きく手首を返すと、弓なりの刀身はぐるりと弧を描き、吸い込まれるように鞘の中に消えた。
 真上も思うところあり、おもむろに右手で腿のホルスターから、左手で腰のホルスターから拳銃を抜く。そのまま、両掌の中で何回転かさせた後、右手の拳銃を腰のホルスターに、左手の拳銃を腿のホルスターに差し替えた。瞬く間の出来事である。
 真上はこの動作を誰かに教わったことはない。生まれつきできたことであるし、自分がどのようにしてそれができるのかも分からない。多分、人間で言う呼吸のようなものなのだろう。誰に教わるものでもない、生命活動を維持するために生まれつき備わっている本能行動。自分という生物はそれが人間より遥かに多く、そして戦いにのみ特化している。そういうことなのだろう。

 海動は、真上の突如とした行為を無言で見届けていた。そして、ゆっくりと視線を鞘に納めた刀に戻し、たおやかな手つきで柄を撫でながら口を開いた。
「今の構えを作ったご先祖様だって、前のご先祖様から剣を教わってきたから作れたんだろう」
「いっちばん古いご先祖様だって、どこかの誰かに剣を教わったんだろうさ」
「それをずっと辿っていけば、きっとこの世で初めて暴力を体系化した人間に辿り着く」
「そう、武の道には、その初めての男から俺に辿り着くまで、一生戦い続けてきた数千人、数万人…4000年の武の堆積がある」
「人一人がたかが一生を懸けて鍛えたくらいじゃ覆らない、戦いの最適解がある」
「誰にも学ばず、何にも賜らず、たかが人間一人分の武を誇る馬鹿に劣りはしない」
「劣ってはならない……」
 ここまで、海動の言葉は途切れることなく流れた。海動は決して饒舌な男でも、弁が立つ男でもない。口数が多い理由も、その口数自体の意図もは真上には不明だ。ただ、きっと海動は本当は『剣士』でいるのが好きなんだろう、それだけがその表情から読み取れた。

 ふ、と一息ついた海動は、真上がぼうっと自分の顔を見つめていることにようやく気付いた。
 真上の視線から自分の熱弁を今更悟ったようで、先程まで厳格な豪気をみなぎらせていた形相はみるみる赤くなり、普段の少年じみた表情に戻るとすぐに俯いてしまった。
「……まあ、それをちょっとかじってるから、おしとやかで心優しい俺だってそこからのイカレよりは強いんだよ」
 真上は笑った。
「俺は修行したことないけど、お前ぐらい強いぞ」
「それだよ!人外(おまえ)は武道4000年と俺の20年が生まれつき入ってんだよ」
「最強のずるっこだ。強く生んでくれた親に感謝しろよ」
「この人でなし!」
 そんな野次とは裏腹に、やっと顔をあげてくれた海動の表情は、やたらと嬉しそうな笑顔であった。
 やはり、道着を着た海動は清らかだなと思う。



「視線が相手の刀から動いていない!相手の足を見ろと言っているだろうが!」
「真剣で練習とか、刀しか見れないって!怖えーんだよ!」
 道場の隅で、壁にもたれながら真上は海動と浩一の手合わせを眺めていた。
 真剣が本気で(海動にしては手加減しているのだろうが)打ち合わされる金属音が道場中に響いている。その戦場さながらの音に、様子を見に来た他隊員に逐一アーニーが状況説明しなければならない始末だ。
 確か由木に教えた時も、ああやっていた。ついでに言えば、生まれてこのかた竹刀で訓練したことは一度も無いとも言っていた。海動はまるで自分をどこにでもいる武芸者の一人のように語っていたが、本当の武芸者に海動のことを尋ねたら「あんなやつは剣士ではない」と返されるのではないか。先程までの武道に関する海動の所見は、あまり真に受けない方が良さそうだ。

 ふと思った。
(俺が修行とやらをしたら、海動より強くなれるかもしれない…)
 だが、すぐにその思考は捨てた。自分はそういうものの埒外にいるのだ。
 そんなのは、人間のすることだ。


***********************
 半年以上前から書き出した文章だったんだけど、あまりもほっぽり過ぎだったので仕上げてみた。剣道や武道の思想にはまったく知識はないので、これは異世界の武道の話だと思ってほしい。
 UX世界だけどアニメ剣さんの設定。アニメ剣さんに心穏やかな武の指導者になってもらいたかっただけ。UX剣さんはアニメ版の荒廃した世界というバックボーンがないから、あまり殺人に取り憑かれず、道着を着てても軍服を着てても武道家としての矜持高い“剣士”海動でもいいなと思う。
 剣さんは、あくまで剣術を殺人術として親から伝授されていて、剣の道における精神的な面を教わってはこなかった(海動の家の剣は、まだ剣術が現役の殺人術だった時代の流れを汲む一派)でも、真上のような一種のプログラムとして戦闘技術をインプットされたのではなく、生身の人間から直接指導を受け、自らの肉体の体験として修練を積んできた来歴から、少なからず剣術に対して単なる技術以上の価値を見出していてくれたらいいな。

 公式設定だけだと、なんとなく海動は各所で暴れ荒くれてる内に強くなったってイメージを持たれがちかもしれないけど、私はそういうの好きじゃない。きちんと師匠がいて、地道に修行して、道を修めて強くなった人が好きだ。裏打ちされた強さじゃないと嫌だ。
 海動がいくら抜群の身体能力と戦闘センスを生まれつき持ち合わせた天才であったとしても、それでもただ闇雲に戦い続けるだけでは(実戦の中で多少学ぶところはあったとしても)その強さは結局「人間一人分」でしかない。動物の世界ならそれで最強なのかもしれないが、人間の世界では知識も技術も経験も、伝授し分析し体積し得る。つまり、その時々で暫定最強だった人間の『最強』をどんどん上書きすることができ、その最新アップデートの最強を習得した人間が最強になる(もちろんその人間も暫定最強であり、その最強を習得しさらに上書きする者がいずれ現れる)というのが、私の考えであり剣さんの考え方です。
 実家で修行を終えた後(終えたと言っても、少年時代の話だけど。でも、先代を殺して代替わりする習慣が海動の家にある以上、父が海動を殺そうとした時点で剣士としてすべてを修めたと認められおり、父を殺した時点で海動少年は海動家最強。本当は父を殺すのは17歳ぐらいが理想なんだが、トラウマや現在年齢との兼ね合いがあるからな…)、幼い剣さんは外の世界の並み居る荒くれ共を見て「なんて弱い連中だ」と愕然としたことだろう。自分の戦闘能力の分析もせず、生来の能力とたかが十数年の戦闘経験にだけ頼る戦士なぞ、邪道とはいえ一つの道を修めた剣さんにとって雑魚もいいとこ。料理に例えれば、食材のいろはも知らず勘と経験だけでなんとなく美味しく作った家庭料理と、産地から扱い方まで知り尽くした食材と一流から教わった技術で作る料亭料理。アマとプロの差がそこにある。その辺、UXでは本物の武術家が多いので、剣さんも礼と敬意を以って一端の剣士として誇り高く戦えたことだろう。
 もちろんだが、同じことが竜馬にも言える。武の求道者の如き父親から空手を叩き込まれたという経歴はすごく説得力があるし大好きだ。正直、絶対に隼人(軍に入らず、まだ素人だった頃)には素手で負けないと思う。

 とまあ、そういう考え方があるので、私は「弱肉強食の暗黒街で生まれ育ったバーサーカー」より「中国四千年の拳法を習得した拳法家」の方が強いと思うし、そういう生真面目な強さが好きだ。前者が後者に例えば卑怯な手を使って勝つこともあるだろうが、それは勝っただけにすぎず、勝敗如何に関わらずあくまで強いのは後者だ(そして、剣さんは先天的は後者で、後天的には前者であるからさらに最強だ!)
 そして、剣さんの強さがそういった武道家的強さであればあるほど、その修練を生まれながら無意味にしてしまう真上という最強のジョーカーが、もうどうしようもなく世界をしっちゃかめっちゃかにする存在に思えて、最高に面白いのですよ。

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